Make Japan Matter
日本企業のブランド力が、日本の未来を切り拓く
こんにちは、I&COです。このニュースレターでは、ブランドの視点でこれからの経営を考えるヒントとなるようなコラムや、I&COの最新情報を隔週でお届けしています。
今回は、I&CO創業パートナーのレイ・イナモトの新著『ブランド・シフト ―「信頼」で選ばれる時代の成長戦略』の発刊に先駆け、本書の内容を抜粋してお届けします。このシリーズの第1回では「良いものをつくるメーカー」から「信頼されるブランド」へという提言を、第2回では「ブランドのフライホイール」という持続的成長の仕組みを取り上げました。最終回となる今回は、レイが本書を執筆した背景に迫ります。
この記事は、5月19日に発刊予定の書籍『ブランド・シフト ―「信頼」で選ばれる時代の成長戦略』から一部を抜粋し、編集したものです。

“Japan is finished.”
あるアメリカ人の友人が、オンラインにこんな一文を投稿していたのを見かけた。もう15年以上前、2010年頃のことだ。
当時は、中国が初めて日本のGDPを上回り、「サムスンがソニーを世界のブランドランキングで追い越した」という見出しが話題になっていた時期だった。それでも日本のGDPは世界3位で、数字だけ見れば存在感はまだ確かに残っているようにも見えた。だから僕は、その発言に感情的に反論した。
しかし今、同じ言葉を冷静に、客観的に、統計的な視点から見つめ直すと、別の景色が浮かび上がってくる。日本企業がグローバル市場で徐々に後れを取りつつあるのは、もはや “空気”ではなく、データが示す現実だろう。そしてその差を生んだ要因の一つが、日本企業の「ブランド」が十分に進化してこなかったことにある、と僕は考えている。
イメージと実際の価値の間にある溝
一方で、日本に対する世界の関心は、決して薄れていない。旅行先としての日本の人気は周知の事実であるし、世界経済フォーラムが2024年に発表した旅行・観光開発指数(TTDI)でも、日本は世界3位にランクインしている。
しかしそれは、経済的な影響力とは別の話だ。
1945年から1980年代後半にかけての約40年間、日本はブランドイメージと価値を世界規模で着実に積み上げた。トヨタ、ホンダ、ソニー、パナソニックが国際展開を進め、「安くて質が良い日本製」という信頼が世界に浸透していった。しかし1990年代初めのバブル崩壊とともに、その価値は揺らぎ始める。中国が世界の工場となり、韓国の電子機器メーカーがグローバルリーダーへと台頭し、インターネットの時代にはアメリカが莫大な優位性を手にした。
料理、アニメ、ゲーム。製造業の力が衰える中、日本は文化的な領域で世界とつながるようになった。だが問題は、文化的な存在感が維持できていたとしても、経済的な影響力は別の方向へと流れてしまったという点にある。
「日本は海外での存在感を再構築する必要がある」——日本銀行総裁を2013年から2023年まで務めた黒田東彦氏も、そう語っていた。日本のブランドイメージは、実際のブランド価値をはるかに上回っている。この溝を埋めることが、今の日本に問われている課題だと思う。
古着屋に見つけた、日本の可能性
そんな問いを持ち続けていた僕に、ある小さな気づきがあった。
去年の夏、10代の娘が仲良くしているアメリカ人の友人が、ニューヨークから日本を訪れた。彼女にとって初めての日本だ。アニメショップ、コンビニ、回転寿司、渋谷での買い物——王道の観光スポットをひと通り制覇したのだが、彼女がいちばん関心をもって何度も足を運んでいたのは、意外にも、滞在先の近所にあった古着屋だった。
後から知ったのだが、英語圏のSNSでは「#usedinjapan」というハッシュタグが密かに広がっているらしい。日本の中古品は、その使用状態の良さや耐久性から高く評価されており、電通の2025年の調査では、64.7%の訪日客が日本の中古品に関心を持っていることが明らかになっている。「日本製」というだけでなく、「日本で使われてきたもの」にまで信頼が宿り、それ自体が価値として流通しているのだ。
これは政府が仕掛けたキャンペーンでも、誰かが設計したブランディングの結果でもない。積み重ねてきた行動と姿勢が、気づかないうちに信頼へと結晶化した現象だ。まさに「信頼による差別化」である。
中古品という一見地味な分野でさえ、日本の信頼は確かな価値を生み出している。そしてこれは偶然ではなく、日本のあらゆる産業に、まだ目に見えない形で眠っている可能性の一端に過ぎない、と僕は感じている。
Make Japan Matter
このニュースレターでは、全3回を通じて本書のエッセンスを届けてきたが、これらはすべて、一つの大きな問いに向かっている。
日本を、世界で必要不可欠な存在にするにはどうすればいいか。
これは今や、僕自身の大きなミッションだ。政治、金融、教育、産業——国の発展を支える要素は無数にある中で、「〇〇さえすればすべてが解決する」という単純な話でないことは、誰もが理解している。だが一個人として会社の仲間の力を借りながら、日本企業や経営者の方々とともに未来を考えることで、日本の前進に寄与することはできる。
本書では、その具体的な考え方と実践のためのフレームワーク、そして国内外の事例とインタビューをもとに、「信頼による差別化」をどう実現するかを記した。「Japan is finished」と言われたあの日から向き合い続けてきた問いへの、僕なりの答えをこの一冊に込めている。
日本企業が未来を切り拓くために必要なブランドの考え方と、フライホイールによる新しい成長モデル。『ブランド・シフト —「信頼」で選ばれる時代の成長戦略』を、ぜひ手に取っていただければ幸いです。
書籍概要
タイトル:『ブランド・シフト —「信頼」で選ばれる時代の成長戦略』
発売予定日:2026年5月19日(火)
書籍の詳細・ご予約はこちら:https://brandshift.iandco.com/






