I&CO Foresight ’26 イベントレポート Vol.2
The Structure of Strong Brands - 日本企業の未来を切り拓く「強いブランド」の構造
こんにちは、I&COです。このニュースレターでは、ブランドの視点でこれからの経営を考えるヒントとなるようなコラムや、I&COの最新情報を隔週でお届けしています。
今回は、7月13日に開催した「I&CO Foresight ‘26」より、株式会社Mizkan 上席執行役員 日本+アジア事業 CEO・槇 亮次氏と、I&CO創業パートナーのレイ・イナモトによるトークセッションの内容をお届けします。
マーケティングとは経営そのものである
レイ:僕が槇さんと初めてお会いしたのは3年ほど前、槇さんがMizkanに入社されて間もない頃でした。マーケティング本部長として入社された当時、社内にどのような課題を感じ、まず何から着手されたのでしょうか。
槇:最初に取り組んだのは、当時約180名いた本部のメンバー全員と対話をすることでした。一人ひとりがMizkanという会社をどのように見ているのか、これから何を成し遂げたいと考えているのかを丁寧に聞いていったんです。
そこで共通して見えてきたのは、率直に言えば「社員が会社や自社ブランドに自信を持ちきれていない」という課題でした。なかでも「味ぽん」についてはブランドのあり方そのものを改めて定義する必要があると判断し、そこから約1年をかけて新たな取り組みを進めた結果、シェアと売上の向上につなげることができました。
先ほどのキーノートセッションでレイさんも話されていましたが、私も、顧客からの信頼を非常に重視しています。「味ぽん」をはじめとする取り組みによってシェアや売上が伸びたのも、時代に合わせてお客様との信頼関係を築き直すことができたからだと思っています。
レイ:そうした成果を重ね、今年3月にはCEOに就任されました。マーケティング部門を率いる立場から経営を担う立場へと移られたわけですが、マーケティングと経営をそれぞれどのように捉えていらっしゃいますか。
槇:マーケティングとは何かと問われれば、私は本質的に経営そのものだと捉えています。そのため、立場が変わったことへの違和感はあまりありませんでした。むしろ意識しているのは、「経営」という言葉にどこか堅苦しい印象がつきまとっていることです。経営とは本来、非常に面白いもの。事業を通じて世の中を変えることができますし、自分たちの仕事によって誰かの人生が変わることもあります。マーケティングは経営そのものであり、そして経営とは本来エキサイティングで楽しいものである、というのが、私の考えです。
「味ぽん」再成長の起点となった価値の再定義
レイ:先ほど、時代に合わせて「味ぽん」のブランドをつくり直したというお話がありました。具体的にはどのようなことに取り組まれたのでしょうか。
槇:「味ぽん」は1964年に発売され、私が入社した時点で翌年に60周年を控えていました。長い歴史を持つ一方で、当時は成長がやや鈍化しており、ブランドの魅力や価値に自信を失いかけているメンバーが一定数いました。
ただ、60年近くにわたってお客様に愛され続けてきたという事実は、商品そのものに本質的な良さがあることの証明でもあります。見せ方や伝え方を変えればその魅力をもっと多くの方に届けられるはず。そう考え、チーム全体で「味ぽん」の独自価値やUAVを改めて定義しました。
それまでは「鍋物」や「おろし焼き肉」といった特定の料理との組み合わせを中心に訴求していましたが、商品を改めて見つめ直すと「味ぽん」は味のバランスが良く、幅広い料理に合うことが分かりました。そこで、特定のメニューに限定されない汎用性の高さこそが「味ぽん」ならではの価値であると捉え直したのです。
レイ:「ブランド」という言葉を使うと、どうしてもイメージや世界観といった抽象的な話になりがちです。一方で今のお話は、実際にどのようなシーンで使われるのかという具体的な観点でブランドを捉え直しているのが面白いですね。
ブランドを抽象論で捉えてしまっている企業からは、「ブランドに投資すべきかどうか分からない」「社内の賛同が得られず、予算が下りない」といった悩みをよく耳にします。こうした悩みを持つ方に向けて、何かアドバイスはありますか。
槇:ブランドを戦略的に活用することで成果を上げた事例は、世の中に数多く存在します。ファクトを求める相手には、ファクトに基づいて説明する。まさに「味ぽん」の再定義は、その一つの実例だと思います。
社会の変化を、ブランド成長の機会に変える
レイ:ちょうど「味ぽん」の話が出たところで、次のテーマである「社会変化との向き合い方」に移りたいと思います。商品そのものの揺るぎない価値に対して、それを取り巻く環境は変わっていきます。自炊率の低下や世帯数の減少といった社会の変化に対して、「味ぽん」のような歴史あるブランドは、どのように向き合っているのでしょうか。
槇:私自身は、そうした変化をできるだけ前向きに捉えるようにしています。世帯数や調理率が減少するという予測も、それほど悲観的には見ていません。仮にシェアが100%に達したとしても、お客様一人当たりの使用量が倍になれば、事業規模はさらに拡大する可能性があるからです。
こうした考え方の背景には、前職で約20年間携わったチョコレート事業での経験があります。私が入社した頃、国内のチョコレート市場規模は3,000億〜3,500億円ほどでしたが、20年後には約6,500億円にまで拡大していました。
ところが消費者インタビューで「前年よりチョコレートを食べる量が増えたと感じますか」と尋ねても、多くの方はそうは答えません。「自分の消費量が増えたかどうか」という実感値が、必ずしも市場全体の伸びと一致するとは限らないということです。
実際には各社が競い合い魅力的な商品や新しい食べ方を次々と提案したことで、市場全体は20年で約2倍に成長しました。トップブランドでさえシェアが5%に満たないほど多くのブランドがひしめく市場だからこそ、競争によって新たな需要が生まれ、市場そのものが広がったのだと思います。
そう考えると、人口や世帯数といった数字だけを見て自ら成長の限界を決めてしまうのはもったいない。「味ぽん」についても、従来の用途にとどまらず、使用シーンが広がっていることは客観的なデータからも確認できています。
レイ:社会の変化といった外部環境は、今後の経営やブランドづくりにおいて、どのような課題や可能性につながると捉えていらっしゃいますか。
槇:事業にとってはむしろ新たな機会になり得ると考えています。情報量が増え、社会の解像度が高まることで、これまで見過ごされてきた個人や社会の課題も次々と顕在化していくはずです。そこに解決策を提示できれば、国内事業にもまだ大きな成長の余地があります。
また、日本で顕在化している健康や食をめぐる課題は、いずれ海外でも同じように生じていく可能性があります。例えば、まだまだ出生率が高いアジアの国々では生活習慣病が急速に増えており、お酢はすでにそうした健康課題を抱える方々に使われ始めています。日本市場は国内の課題を解決するだけでなく、世界の将来を見据えた取り組みを先行して試す、いわばパイロット市場としての役割も担っていると考えています。
「人」を起点に、変化へ柔軟に向き合う
レイ:事業を成長させていくうえでは、組織の変革も欠かせないと思います。CEOとして、組織づくりにおいて最も大切にされていることは何でしょうか。
槇:最も重視しているのは「人」です。今後はAIの活用によって業務のあり方も大きく変わっていくと思いますが、単にAIの導入率を高めること自体を目的にするのではなく、あくまで人のために活用すべきだと考えています。
社員が成長を実感できるような仕事の任せ方を考えることや、より重要な業務に集中できるよう、時間の使い方を見直すこともその一つです。そうした意味でAIへの投資は、言い換えれば社員一人ひとりへの投資だと捉えています。
レイ:最後に、お客様に選ばれ続けるブランドを築くうえで、特に意識されていることはありますか。
槇:よく「顧客志向」という言葉が使われますが、私が大切にしているのはむしろ「顧客視点」に近い感覚です。これを日本語でうまく表現できずにいるのでレイさんにアドバイスをいただきたいのですが、英語で言う「Stay True to Consumer」は、日本語ではどのように表現するのがよいでしょうか。
レイ:「寄り添う」という言葉がしっくりくる気がしますね。
槇:なるほど、「寄り添う」ですね。価値観が多様化した今の時代に、あらゆる状況を想定して細かなルールを定めようとすると、かえって柔軟に動けなくなってしまいます。それよりも、お客様に寄り添うという考え方を軸に据えて、違和感があればいつでも見直せる前提で新しい取り組みを始める。そして、手応えがあればさらに展開を広げていく。重要なのは、こうしたサイクルを機動的に回し続けることだと考えています。
レイ:社員に対してもお客様に対しても、常に「人」を起点に考え、寄り添う姿勢が根底にあるということですね。槇さん、本日はありがとうございました。







