GREEN WORK HAKUBA イベントレポート
登壇セッション「社会課題を前進させるクリエイティビティ」ー社会課題は「実装」で動く
こんにちは、I&COです。このニュースレターでは、日本の社会・企業・人のより良い未来への展望を拓くヒントとなるようなコラムや、I&COの最新情報を隔週でお届けしています。
今回は、10月26日-27日に長野県・白馬村で開催されたGREEN WORK HAKUBA(GWH / 主催:白馬村観光局、新東通信 CIRCULAR DESIGN STUDIO.)のイベントレポートをお届けします。本イベントは今回で7回目の開催となりました。
GWHは、白馬の自然を舞台に「サステナブルを遊ぶ、企む、つくる。」をビジョンに掲げ、机上の理念ではなく現場で機能する解を探る実装志向の場です。
会期中は、Earth Nest代表の磯貝友紀氏によるサーキュラーエコノミー戦略のキーノートに加え、サーキュラービジネスを実装するスタートアップのピッチ、生物学者・福岡伸一氏が提唱する「動的平衡」の視点から生命を捉え直すオンラインセッション、地元の行政・大手企業・高校生とのコラボレーション、地域の生態系に目を向けるフィールドワークなど、白馬村ならではのプログラムが2日間かけて開催されました。
ここからは、同イベントに登壇した I&CO Tokyo 代表・近藤まり子によるセッション「社会課題を前進させるクリエイティビティ」の内容をお届けします。
11.1%という現実
イベントにお越しの皆さんは、環境に配慮した商品を、通常より高くても選ぶでしょうか。国内の一般統計では、衣類の購入で環境配慮を優先する人は11.1%にとどまります。2020年のデータではありますが、現在もそれほど大きく変わっていないのが実情です。
私がお伝えしたいのは、「社会課題の解決が求められる一方で、人々の行動モチベーションが追いついていない」という現実です。国連も今年6月、SDGsの進捗について「Let’s be clear - We are not where we need to be(私たちは、到達すべき地点にまだいない)」と率直に述べています。理念と現実のあいだには、依然として大きな溝があるのです。
このギャップは、B2Bの現場でも顕著に現れています。セッション中、民間型のカーボンクレジット事業に取り組む参加者が、こうした課題を共有してくれました。
「企業の脱炭素計画を一緒に立てる段階では前向きでも、決裁の場では『今ではない』と先送りされやすい。自然資本への投資として提案しても、クライアント企業のKPIとのつながりが見えにくく、なかなか前に進まない。」
こうした現場の葛藤が、日々のビジネスの中に横たわっています。「必要」と「行動」の隙間をどう詰めるか。このギャップこそ、クリエイティビティが問われるところだと私は考えます。
「普通にやるとこうなる」を超える
ここで一度、クリエイティビティについて考えたいと思います。一般にクリエイティビティというと、ビジュアルをつくる力やコピーライティングの力として語られがちです。もちろんそれらも大切ですが、それだけではありません。私にとってのクリエイティビティの要諦は、「普通にやるとこうなるよね」を、どう超えるかにあります。
たとえばLED電球を全世帯に普及させたいとき、補助金や割引に頼るのが一般的なアプローチでしょう。しかし現場には、予算の制約、決裁の重さ、導入の面倒くささといった壁が同時に存在しています。ここで必要なのは、発想と実装の力で「最初の一歩」を軽くする設計です。既存の段取りに従えば想定どおりの結果にしかならない状況で、障壁を見つけ、順序を組み替え、挙動が変わるところまでやり切る。この発想と実装の力こそが、今この文脈でのクリエイティビティだと考えています。
ここからは、そんなクリエイティビティを発揮したいくつかの事例をご紹介したいと思います。
「正しい」より「欲しい」が人を動かす
人は「正しいから」では動きません。自身の欲求や関心事と結びついた時に、初めて動きます。
例えばアメリカで大人気となった缶入りウォーター Liquid Death は、その原理を正面から活用しています。キーメッセージは「Death to Plastic(プラスチックに死を)」。長年ペットボトルに頼ってきた水というカテゴリーを、あえてアルミ缶へ置き換えることで、使い捨てプラスチックへの依存を供給形態の設計そのものからずらしました。

さらに印象的なのが、アメリカで最も注目されるスポーツイベントの一つ、スーパーボウルで放映されたCMです。子どもや妊婦、高齢者など、お酒を飲めない人たちがあたかも豪快に缶入りのお酒を飲んでいるように見せ、後からそれがただの水だと明かす——そんな痛快な反転によって、「楽しいから選ぶ」という動機を生み出しました。その結果、Liquid Deathは一過性のヒット商品にとどまらず、スーパーの棚に普通の水として並び、ライン展開も広がっています。
善意の呼びかけではなく、美意識・遊び心・笑いといった人の欲求や関心事に商品体験を接続することで、「必要」と「行動」の間にあるギャップを跨ぐ。これが彼らの実装です。
この流れは、クリエイティブ・カンパニーのヘラルボニーにも通じます。「支援になるから買う」ではなく、「素敵だから欲しい」へ。障害のある方のアートを特別なものとして扱うのではなく、デザインとしての魅力で堂々と評価される構造に置き換えています。このイベントに登壇されたamu株式会社の加藤広大氏も、ピッチの中で自社の「廃漁網」を活用したプロダクトに触れ、「“背景が立派だから”では売れない。最初に“素敵”が立ち上がらないと広がらない」と指摘していました。この“順番の組み替え”こそが、実装の鍵なのです。
ユーザーが誰なのかを見つめ直す
ユーザーが誰なのかを改めて捉え直すだけで、実装の焦点が一気に鮮明になることもあります。
LGのエアコンに搭載された実証実験中の機能「メノポーズモード」は、更年期女性が直面する就寝中のホットフラッシュ(急な体温上昇)と、それによる不眠に寄り添う機能です。夜間に体温が上がり、汗ばむことで目が覚めてしまうという具体的な困り事に対して、冷却と送風を組み合わせたプリセットを提供し、眠りを中断させないことにフォーカスしました。
現在、40歳から60歳の女性は世界で約10億人にのぼります。「誰の、どの瞬間」を一点突破で定義し直すことで、機能開発の優先度と投資対効果が明確になり、その結果、未充足のニーズを的確に埋める実装へとつながるのです。
ユーザーは生活者だけではありません。供給する側もまた、ユーザーになることがあります。サウジアラビアのデリバリープラットフォーム HungerStation は、酷暑の都市部を走るドライバーのために「Shaded Route(日陰ルート)」を導入しました。アプリが日陰を優先する最適ルートを計算し、「この道なら体感温度が何度下がり、到着は何分差か」を示す仕組みです。真夏には路面温度が50度近くに達する地域もある中で、直射を避けられるだけでドライバーの疲労は大きく減り、携行飲料や荷物のコンディションも保ちやすくなります。結果的に、ドライバーの安全・快適性が配達品質の安定につながり、受け手の満足という好循環が生まれます。
倫理を掲げる前に、アルゴリズムで“働く人がラクになる”構造をつくる。これもまた、クリエイティビティの一つの形です。

教育の現場にも、ユーザーを見つめ直す視点は生きてきます。例えば、防災教育キット「はるるーと」。避難訓練の動線を「教わる」から「いっしょに貼ってつくる」へと切り替える仕組みです。防災標語「おかしもち」などのメッセージが印刷されたテープを、先生と子どもが校内に貼り巡らせるという行為そのものを、学びのプロセスに変えています。
ここでのユーザーは、子どもたちだけではありません。指導する先生方もまた、重要なユーザーです。先生にとっては教えやすく、子どもにとっては防災を「じぶんごと」として捉えられる体験。それらを通じて、防災を日常の中で主体的に学べる仕組みが生まれています。
実は、この「はるるーと」を企画・開発したのは我々I&COなのですが、実際に避難訓練に向けた教員の準備負担が軽減され、子どもの主体性と記憶の定着が高まったという声が寄せられています。
初期費用ゼロという設計
B2Bの現場ではよく、「電力削減の必要性は理解している。けれど初期投資が重く、今は動きにくい」という本音が、事業部門にも財務部門にも横たわっています。
エネルギー管理サービスとソリューションを提供する「Budderfly」は、その最初のつまづきを取り除くアプローチで成功しています。仕組みはシンプルです。Budderflyが先に投資し、店舗やホテルに高効率の空調・照明等を導入する。設置後に電気代が実際に下がり、その削減分の一部を長期的にBudderflyへ還元する。取り組む価値はあるのに、最初の一歩がお財布事情で止まってしまう現場に対して、最初に誰が払うのか?を入れ替えるだけで実行を後押しするモデルです。

実績として、Dunkin’ Donutsの6店舗で約25%の消費電力削減を達成したことが報告されています。今年のFast Company「Most Innovative Companies」にも選出され、日本では富士通ゼネラルの参画を通じて広がりを見せています。スローガンではなく、支払いの順序を替えるという実装が、「必要」と「行動」のギャップを跨がせる力なのだと、私は考えています。
実装で動かす
ここまでの事例に共通するのは、社会課題の「必要」と人の「行動」の間にあるギャップを、発想と実装の力で跨ぐということです。そのための鍵は三つあります。
本音を描く:行動が止まる理由を言語化し、誰が一番困っているのか/何がネックかを具体的に描く(例:ペットボトルでも困っていないが「楽しいなら選ぶ」〔Liquid Death〕)。
対象と瞬間を決める:ユーザーを固定せず、生活者・供給側・現場・意思決定者まで含めて関係者を見直し、「誰の、どの瞬間」を一点突破で良くするかを決める(例:就寝中のホットフラッシュの瞬間に合わせた冷却プリセット〔LG「メノポーズモード」〕)。
最初の一歩を促す実装に変える:スローガンではなく、支払い・導入・運用・決裁のいずれかを軽くする仕組みに置き換え、小さく始められる一手を促す(例:先に投資し電気代削減分で回収する仕組み〔Budderfly/Dunkin’ Donutsで約25%削減〕)。
クリエイティビティとは、かっこいい表現を生む力ではなく、「普通にやるとこうなる」を超える発想と実装の力だと、私は考えます。白馬の大自然の中で一度視点をリセットすると、見落としていた本音や瞬間が浮かび上がってくるかもしれません。皆さんが参加する次の会議では、まず一つ、いつもの解決策とは違う切り口を検討してみてください。ユーザーの本音を掘り下げる、ユーザーを捉え直す、最初の摩擦を取り除く。そうした視点の転換から、組織も市場も、確実に動き始めます。
(近藤まり子)






近藤様
グリーンワーク白馬の近藤さんの記事を拝見しました。当日、ご参加頂き大変感謝いたします。
その中で語られていた、
“背景が立派だから”では売れない。最初に“素敵”が立ち上がらないと広がらない。
おっしゃる通りで同意です。
そして誰が”素敵”にクリエイティブを仕上げていくのかも大切で、そこに力を注いでいらっしゃると思います。
社会的に注目度の高い企業など資金的に余裕のある企業がまず率先垂範でクリエイティブに力を入れて発信していく事で後に続く企業も増えて来ると思いますので皆さんの活躍にも益々期待しております。
同時に、中小の資金力が乏しく、人材も枯渇している組織が積極的にクリエイティブに力を入れて”素敵”な背景を立ち上げていける様に、光が当たる様にするために「サスティナビリティクリエイティブアワード」の様な発表の場が身近に増えることも望みます。
私は、共生進化ソサイエティ-という「講」コミュニティを立ち上げて、知恵を出し合う仲間の輪を広げています。
ご興味がありましたらご連絡ください。https://kyoseishinka.jp/