ブランド・ジャパン
日本のブランド価値を再構築する5つの方法
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今回のコラムは、ニューヨークに拠点を置くレイ・イナモトが執筆した「ブランド・ジャパン」です。今日に至るまで最も成功した国家ブランディングのうちの一つとして語り継がれている1964年の東京オリンピック。あれから40年がたち、日本への評価は文化的なものにシフトし、幸か不幸か日本のブランドイメージは実際の価値を上回るものになっているといえます。いま再び日本が価値を高め、ブランドを再構築するための5つのポイントとは?ぜひご一読ください。
このコラムは、レイ・イナモトの「Brand Japan」をベースに翻訳・編集したものです。
1964年に初めての東京オリンピックが開催され、日本は戦争から20年で、国家として再興を果たしたことを世界に示した。
そして2013年9月、東京は再び夏季オリンピック大会の開催都市に選ばれた。この大会は、新しい時代の「ブランド・ジャパン」を世界に示すものとなるはずだった。
しかし大会開幕のわずか4ヶ月前に、世界はパンデミックを経験することになる。東京2020は東京2021に名前を変え、さまざまな世論を押し切って開催されたその大会は、オリンピックらしからぬオリンピックとなった。
奇跡の復興
1964年の東京オリンピックが開催される20年足らず前、東京は焼け野原となっていた。こうした状態から20年足らずで復興を遂げた国を見るのは、まさに奇跡としか言いようがない。大規模な国際イベントを主催することは、世界に対して自国の存在感と力を証明できる最高のブランディング機会であり、日本はこの機会を見事に活かしたといえる。

今日に至るまで、1964年の東京オリンピックは、歴史上最も成功した国家ブランディングのうちの一つとして語り継がれている(ちなみにもう一つの事例は1969年の月面におけるアメリカ国旗掲揚だが、これは別の機会に)。
イメージ vs 実際の価値
「あなたの国は素晴らしいですね」
これは、私がVerizonのカスタマーサポート担当者から言われた言葉だ。私が日本人だとわかると、彼は『ワンピース』という日本の漫画について私以上に詳しく語り、さらに日本に関する他のいくつかのトピックについて、情熱と知識をもって話し続けた。
そこで私が「日本には何回行ったことがあるのですか?」と私が尋ねると、電話の向こうの彼はこう答えた。「ああ、行けたらいいのになあ!」
日本人としての贔屓目を差し引いても、このように日本には人々を引き付ける魅力、オーラ、イメージがあると思う。世界経済フォーラムが今年発表した旅行・観光開発指数(TTDI)では、日本は旅行・観光に最適な国のリストで3位にランクインしている。

最初の東京オリンピックが開催された1960年代は、トヨタ、ホンダ、日産、ソニー、パナソニックなど多くの日本企業が国際展開を始めていた。こうした動きは日本の成長を牽引し、世界での存在感を高め、産業化が進んだ20世紀後半には、日本は自国の製品を世界中で収益化することに成功していた。
1945年から1980年代後半までの40年以上にわたり、日本は急速に、そして着実に世界中でブランドイメージと価値を高めた。 しかし1980年代後半のバブル経済崩壊とともに、その価値は侵食され始めた。
日本の隣国とライバル国
この頃、中国や韓国といった近隣諸国が、主要産業における日本の強みを脅かし始めた。中国は世界の工場となることで経済を成長させ、韓国は自動車と電子機器分野で日本の成功に追随した。
自動車産業では日本が優位性を維持し続け、トヨタ、ホンダ、日産がドイツに匹敵する存在となっている。しかし電子機器分野では、韓国のサムスン、台湾のフォックスコン、中国のテンセントが、日本企業に代わってグローバルリーダーとなった。その次にはインターネットの時代が到来し、アメリカが多くの国々に対して莫大な富と優位性を獲得した。日本が苦戦しているのはご覧のとおりだ。
製造業における力が衰える中、日本は、料理、アニメ、ゲーム、カラオケなど、より文化的な領域で世界と繋がるようになった。問題は、文化的には世界規模で存在感を維持できていたとしても、経済的な影響力が失われてしまったという点にある。
2018年から2023年まで日本銀行の副総裁を務めた雨宮正佳氏は、「日本は海外での存在感を再構築する必要がある」と述べた。幸か不幸か、日本のブランドイメージは、実際のブランド価値をはるかに上回るものとなっている。
国内外の経済学者や政府関係者は、停滞した経済を刺激するためのさまざまな法的、金融的、デジタル的な変革を提案している。彼らの意見は間違っていないが、より単純で基本的で大切なこと、つまり意識の変革について語る人は多くない。理由はおそらく、その変革が文化的で、無形で、特定のグループの人たちにとって潜在的に脅威となるものだからだろう。
打破すべき5つの障壁
日本のブランド価値を再構築するには、以下の5つの障壁を打破する必要がある。
1. 年功序列の慣習
日本では、年功序列の慣習は学生時代から深刻になり始める。 これは大学や職場にまで及び、経験を積むにつれてさらに強調される。能力に関係なく、年齢をそのまま肩書きや給与に反映する企業があるほどだ。
20世紀の日本においては、このような厳格な階層制が一定の役割を果たしてきた側面もある。形式、プロセス、規律が厳密に守られることで、強い経済、産業、組織が作られた。日本の社会福祉制度は米国よりもはるかに機能的で、高齢者への保護も手厚い。
しかし今、こうした年功序列への頑なな固執を打破する必要がある。 年齢ではなく能力に基づいて、高齢の男性が権力を手放し、若い人々にポジションや地位、機会を与えなければならない。
2. 暗黙の父権制(男尊女卑)
日本におけるもう一つの頑固な、暗黙の文化的慣習が父権制だ。男尊女卑という言葉さえある。
ちなみにこれは日本に限ったことではなく、世界的な問題だ。アメリカにさえ、これまで女性大統領は登場していない。世界経済フォーラムが2024年に発表したジェンダーギャップ指数によると、日本は146カ国中118位で、G7先進国中最下位となった。ドイツはG7諸国の中で最高の7位、アメリカは43位だ。
日本の父権制を打破する鍵を握っているのは年配の男性たちだ。日本が21世紀にブランド価値を獲得するためには、まずジェンダーの公平性から始める必要がある。
言語における完璧主義
中学、高校、大学と多くの日本人が英語を10年間学んでいるにもかかわらず、日本で効果的に英語を話せる人はごくわずかだ。 言語の習得は即効性のある解決策ではないし、金銭をかける必要もあるかもしれない。しかし近年は、無料または低コストで英語を学べるツールやアプリ、プラットフォームが格段に増え、以前ほど障壁は高くないと考えている。
2007年に、私は仕事で初めて中国を訪れた。中国全土から集まった500人の学生に、クリエイティブワークショップを実施するためだ。彼らのほとんどは中国から一歩も出たことがなかったが、その多くは、十分にコミュニケーションがとれる英語を話した。5日間のワークショップの最後に、選ばれたチームがステージで作品を発表する際、多くの学生が自信を持って英語で発表したことに、私は非常に感銘を受けた。
残念ながら、日本ではこのような光景は見られないだろう。日本人の完璧主義が、ここでは障害となっているのかもしれない。 言語の障壁は、多くの人が考えているよりも精神的・心理的なものなのだ。
4. 情報提供 > 意図の伝達
日本は黒澤明や村上春樹のような素晴らしいストーリーテラーを生み出してきた。また、俳句のような独特の形式を持つストーリーテリング文化も持っている。 しかし、日本企業にそうした特徴を見出すことはできない。会議やプレゼンテーションでは、内容やストーリーではなく、形式やプロセスに重点が置かれすぎている。日本のビジネスパーソンは「情報提供」に熱心で、「意図を伝える」ことが苦手だ。
技術がどれだけ進歩しても、人間はまだ感情に基づいて決定を下す。スティーブ・ジョブズは、技術以上にストーリーテリングの力を使う方法を知っていた。 多くの日本企業は、モノを生産する能力と同じくらい、モノを効果的に伝えることに焦点を当てるべきだろう。
5. 決断の不在
日本のビジネス文化に関するジョークを一つ紹介したい:
「日本のビジネスマンに『イエス or ノー』を問うと、どんな答えが返ってくるでしょうか?」 。このクイズに正解できる外国人はほとんどいない。正解は -「or」だ。
もちろんこれはジョークだが、日本企業の特徴をわかりやすく指摘している。
私は、どの組織や国の将来の価値にも決断力が重要だと考えている。ユニクロの創業者兼CEOである柳井正氏や、現在トヨタグループの会長である豊田章男氏ら一部のリーダーにこの資質を見ている。過去20年間、彼らは大胆な決断をしてきた。
その結果は言うまでもない。彼らは日本で最も成功し、世界的に影響力のある企業となった。
日本が21世紀に再び成長するためには、経済政策やアプローチの変更もたしかに役立つかもしれない。しかし、こうした意識の変革こそが、日本の未来とそのブランド価値に、はるかに大きな影響を与えることができるはずだ。
(Written by Rei Inamoto 原文はこちら)





