いま企業に求められている変化
これからの組織と働き方を読み解く
こんにちは、I&COです。このニュースレターでは、日本の社会・企業・人のより良い未来への展望を開くヒントとなるようなコラムや、I&COの最新情報を隔週でお届けしています。
今回は、ニューヨークに拠点を置くレイ・イナモトと、40年以上にわたり広告業界の第一人者として活躍し、現在は企業の組織変革や人材育成を支援するリシャード・トバッコワラ氏の対談をお届けします。今まさに起きている「働き方の地殻変動」とは何なのか?組織はその変動にいかにして対応していけるのか?ぜひご一読ください。
この記事は、レイ・イナモトのPodcast番組「世界のクリエイティブ思考 #111(前編)」の内容をベースに編集したものです。

変革の予兆
レイ:リシャードさんが今年2月に発表した著書『Rethinking Work』では、働き方に地殻変動レベルの大きな変化が起きていると指摘しています。具体的にどのような変化を感じていらっしゃいますか?
リシャード:2020年から2030年にかけて、私たちの働き方は歴史上かつてない大きな変革を遂げようとしています。その変革は、具体的には五つの大きなシフトで説明することができます。社会的シフト、技術的シフト、市場のシフト、オフィスのシフト、そしてマインドセットのシフトです。
一つ目の社会的シフトは、労働環境の根本的な変化です。日本のような少子高齢化が進む国では労働人口の減少が顕著ですが、アメリカではさらに興味深い傾向があります。Z世代の66%が副業を持っている、つまり若い世代の3人に2人は、一つの会社だけで自分の将来を描いていないんです。彼らは常に複数の選択肢を準備し、キャリアの柔軟性を重視しています。
二つ目の技術的シフトはその名の通り、技術の進歩による仕事内容の変化です。生成AIや仮想世界の技術が急速に進化することで、我々は「人間にしかできないこと」へのフォーカスを求められるようになりました。それはたとえば、共感や創造性、倫理的判断といった領域です。機械との棲み分けを前提に、新たなスキルや役割が求められています。
三つ目の市場のシフトは、個人の台頭という形で現れています。テクノロジーの発展によって、かつては大企業にしかできなかったことが、個人にも可能になりました。Amazonマーケットプレイスでの販売やnoteやKindleなどを活用した出版活動が分かりやすい例です。こうした動きは「個人が市場のプレイヤーとなる時代」がすでに始まっていることを示しています。
四つ目のオフィスのシフトは、働く場所の自由化です。リモートワークの浸透により、「どこで働くか」がもはや制約ではなくなりました。場所に縛られない働き方が当たり前になり、オフィスの存在意義そのものが再定義されています。オフィスは「集まるための場」から、「意味のある時間を過ごす場」へと変わりつつあります。
五つ目のマインドセットのシフトは、仕事の意味の変化です。コロナ禍を経て、多くの人が「なぜ働くのか?」を見直しました。給与や肩書きだけでなく、働くことが人生や社会にどうつながっているのか。その問いに企業も答える必要があります。働き方改革やウェルビーイングの議論の背景には、こうした価値観のアップデートがあるのです。
レイ:働く人にとってのこうした劇的な変化が、企業に対しては具体的にどのような影響を与えているのでしょうか?
企業はどう変わるべきか?四つのポイント
リシャード:影響は広範囲に及び、特に大企業は大きな転換を迫られています。従来のように大人数の従業員を抱える体制が、むしろ競争力を削ぐ要因になりつつあるんです。企業が取り組むべき重要なポイントは、次の四つです:
雇用形態の革新
場所にとらわれない働き方
リーダーシップの再定義
テクノロジーと人間の共存
まず第一に、雇用形態の革新。これまでの正社員、派遣社員、フリーランスという限られた選択肢を超えて、もっと柔軟な働き方が必要です。私は「掛け持ち従業員」という新しい雇用形態に注目しています。正社員と同等の福利厚生を維持しながら、週3日は会社Aで、残りの2日は会社Bで働くような働き方です。
レイ:実は私たちの会社でも、リシャードさんのお話にあった雇用形態の革新に取り組んでいて、正社員が働く日数を週3日・4日・5日の中から選べるようにしているんです。それぞれのライフスタイルや個人の状況に合わせて働き方を選択できる環境を整えることを目指しています。企業が取り組むべきポイントは、他にどのようなものがあるのでしょうか?
リシャード:第二に、場所にとらわれない働き方の実現です。これは単にリモートワークを指すのではなく、世界中から才能ある人材を柔軟に採用できる環境づくりの重要性を意味します。例えば、アメリカの会社で働きながらメキシコに住むことで、生活コストを抑えつつ、キャリアを追求できる。世界では今、そんな可能性が広がってきています。入社後三ヶ月はチームで一緒に研修を受けるとか、それぞれの仕事の内容に合わせて年に1回あるいは四半期に1回集まるとか、そんな風に柔軟に進めることができれば、集まる場所がオフィスである必要はないかもしれません。
そして三つ目は、リーダーシップの再定義です。これまでの中間管理職は、部下を監視し、時間や締め切りを管理することに注力してきました。しかし、それは本質的に従業員を信頼していないことを意味します。これからのリーダーは、インスピレーションを与え、自発的なモチベーションを引き出す「インフルエンサー型」のリーダーシップが求められます。
レイ:「インフルエンサー型」のリーダーシップにおいては、具体的にどのような影響を与えるべきなのでしょうか。
リシャード:今リーダーに求められているのは、管理ではなく触発です。従業員の自由と成長を支援することが最も重要になっています。単に指示を出すのではなく、社員が自発的に最高のパフォーマンスを発揮できる環境をいかに作るかが鍵となります。
リシャード:最後は、テクノロジーと人間の共存です。AIを単なる人工知能ではなく、「拡張知能(Augmented Intelligence)」として捉えるべきです。人間の能力を代替するのではなく、補完し、伸ばすツールとして活用することが重要なんです。
ここ数年、私が大企業の経営者に常に問いかけているのは、「もし今、ゼロから会社を立ち上げるとしたら、同じ方法で同じ会社を作りますか?」という質問です。これまで、同じ方法で会社を再現すると答えた経営者は一人もいませんでした。
大企業の経営者がすべきことは 「今の時代にもう一度ゼロから起業するとしたらどうするか? 」を考え、その答えのように体制を変えていくことだと思います。

対談を振り返って:
働き方の未来から学ぶ変化への適応(レイ・イナモト)
リシャードさんとの対談を通じて、「働き方の変化」は、単なる一時的なトレンドではなく、長期的な構造変化であることが明確になった。
特に、「企業は過去のやり方を前提にするのではなく、もしゼロから会社を作るとしたらどうするか?」を常に問い続けることが重要だという指摘は、多くの企業にとって示唆に富むメッセージだ。
働き方の変革は、単なる制度の変更ではなく、社会構造、テクノロジー、個人の価値観の根本的な変革である。リシャードさんの洞察は、変化を恐れず、むしろ積極的に embraceすることの重要性を私たちに教えてくれている。
未来の働き方に適応するために、企業はこれまでの常識を疑い、柔軟で創造的なアプローチを取る必要がある。私たちは今、働くことの意味そのものを再定義する歴史的な転換点に立っているのかもしれない。



