防災を日常に。学校や自治体と共創した「はるるーと」プロジェクト
「貼る体験」を通して防災意識を日常に刻む、新しい仕組みのデザイン
こんにちは、I&COです。このニュースレターでは、日本の社会・企業・人のより良い未来への展望を開くヒントとなるようなコラムや、I&COの最新情報を隔週でお届けしています。今回は、静岡県出身のデザイナーの想いから生まれ、教育現場と一緒に育ててきた防災デザインプロジェクト「はるるーと」の取り組みをご紹介します。
デザイナーの想いから生まれた防災への取り組み
静岡県は、南海トラフ巨大地震による被害が懸念される地域のひとつです。そんな土地で生まれ育ったI&COのデザイナー・橋本明花は、「デザインの力で子どもたちの未来や安心安全に貢献したい」という想いから、避難誘導のための新しいサイン「はるるーと」の構想をスタートさせました。
多くの学校では災害時の避難経路を定めているものの、いざ災害が起こったときの児童・生徒の対応は、先生方に委ねられることになります。その指示に従ってすみやかに避難することが何よりも大切ですが、橋本は「子どもたち自身の防災意識を育むことがより安全な避難につながる」と考え、体験とデザインで防災を日常的なものにする「はるるーと」を考案。アイデアを形にするために、試行錯誤を重ねました。
「はるるーと」は、学校の廊下などに貼って使用するテープ状の避難ルートサインです。一般的に、避難ルートサイン(非常口サイン)は子どもたちの目線の上、かつ限られたポイントに配置されています。これに対して「はるるーと」は、子どもたち自身がテープを貼る体験を通して避難ルートを覚えたり、子どもたちの視野に入りやすい場所に配置することで、日頃から非常時の避難ルートへの意識を育むことを目指しました。
子どもたちでも貼りやすいものにするためには、シール状にするべきかロールテープ状にするべきか。どんな素材がふさわしいのか。避難ルートサインとして視認性を高めるには、どのような色や形が良いのか。— 当初イメージしていた蛍光色を採用する難しさや、視認性と貼りやすさを両立する素材探しの難しさなどに直面しながら、モックアップの制作を重ね、アイデアを具現化していきました。
現場の声を聞き、アイデアを形にしていく
コンセプトに賛同してくださった市役所の協力のもと、2024年4月に、静岡県三島市立東小学校で「はるるーと」を使った避難訓練が実現しました。事前の現地調査で視認性の高さが確認できた緑色を採用することを決め、避難訓練の前日に先生方と市職員、I&COメンバーで「はるるーと」を準備。このときは時間の都合で子どもたちと一緒に貼る体験は叶いませんでしたが、数10メートルにわたる長い廊下で実際に貼ってみる作業は、その後のプロダクト改善にも活かされました。
「はるるーと」を使って避難訓練をした児童からは「わかりやすくて逃げやすかった」、先生方からは「防災への関心と、児童たちが自ら判断して動こうとする姿勢が見えた」といったフィードバックをいただき、コンセプトの有効性を確認するとともに、素材・色味・デザインを見直し、プロダクトとしての「はるるーと」が完成しました。全国的に広く使用されている避難時のあいことば「お・か・し・も・ち」と、直感的にわかりやすいデザイン、色覚の個人差に配慮したユニバーサルカラーで、日常に溶けこむ防災意識の醸成を目指します。
単なるモノではない、体験とセットの防災教育
三島市での実証実験を受けて、プロジェクトはフェーズ2へと進化。「はるるーと」をさらに効果的に活用してもらうために、避難に関する基礎的な知識や「『はるるーと』が貼ってある場所で火災が発生していたら?」といった内容を、クイズ形式で授業用スライドにまとめた「はるるーと 防災教育キット」を制作しました。
このフェーズ2では、社会的価値の創造や子ども中心の学校経営に力を入れている埼玉県入間市役所の協力のもと、入間市立藤沢東小学校の4年生を対象とした総合的な学習の時間で「はるるーと 防災教育キット」を使用した防災授業を実施しました。「はるるーと」によって避難ルートに興味をもつ児童の様子や先生方のインタビューを動画にまとめていますので、ぜひご覧ください。
“Make What Matters” を目指して
三島市や入間市での取り組みはいずれも現地メディアや教育関連メディアで取り上げられ、学校以外にも名古屋市緑児童館での利用が始まったり、他の自治体での導入検討が進んでいたりと、「はるるーと」は少しずつ広まってきています。
この「はるるーと」プロジェクトは、I&COが日頃手がけている企業やブランドの支援といった枠を超えた取り組みですが、私たちが掲げる「Make What Matters」—世の中にとって意味のあるブランドやプロダクトを創出するという想いの延長線上にあるプロジェクトです。モノを作るだけではなく、体験を通じた防災意識の育成をデザインし、社会に位置づけていくために、今後も多くの自治体や学校に「はるるーと」が広がっていけばうれしく思います。









