沖縄の古酒を、世界各地で飲まれるお酒に
泡盛が拓く、新たなジャパニーズプレミアムスピリッツの可能性
こんにちは、I&COです。このニュースレターでは、日本の社会・企業・人のより良い未来への展望を開くヒントとなるようなコラムや、I&COの最新情報を隔週でお届けしています。
今回は、沖縄の風土と職人の技に育まれた蒸留酒「琉球泡盛」を世界に伝えるために始動した、沖縄県とのプロジェクトをご紹介します。
日本最古の蒸留酒が直面する課題
琉球泡盛は日本最古の蒸留酒であり、沖縄の風土に根ざした独自の製法で造られてきました。その文化的価値は高く、泡盛を含む「伝統的酒造り」は、2024年にユネスコ無形文化遺産に登録されています。手作業による一連の技術を受け継ぐその造りと深みのある味わいは、長年にわたり、沖縄県を中心に国内で愛されてきました。
しかし、グローバル市場での泡盛の存在感は決して高くありません。日本酒やジャパニーズウイスキーが国際的な評価を確立している一方で、海外における泡盛の知名度や認知度は限定的でした。この現実を変えるべく、I&COは沖縄県とタッグを組み、泡盛を世界中で飲まれる日本発のプレミアムな蒸留酒として再定義するプロジェクトを2023年11月に始動しました。
共通言語の発見から始まった再定義
プロジェクトの始まりは、沖縄県シンガポール事務所との意見交換でした。そこで浮き彫りになったのは、「泡盛の特徴が伝わっていない」という根本的な課題です。専門の販売員を常駐させるのが難しい状況では、独特な原料や複雑な製法を丁寧に説明することができず、より直感的に価値を理解してもらえる新しいコミュニケーションの枠組みが求められていました。
そこで着目したのが、「熟成年数によって価値が高まる蒸留酒」という特徴です。ウイスキーやワインが熟成年数により評価が高まり、価格や品質への納得感を生んでいる点にヒントを得て、I&COは泡盛を「熟成によって価値を高める日本のプレミアムな蒸留酒」と再定義しました。そこから、シンガポール市場で受け入れられるブランドポジショニングとデザインを一から構築していったのです。
認知度のない新たな市場でのコミュニケーション設計
海外展開するためのボトルデザイン監修において、I&COが意識したのは次の二つのポイントです。
1. 世界の蒸留酒市場での正当なポジション獲得
これまで泡盛が海外で販売される際は、「日本のお酒」コーナーに置かれ、ジャパニーズウィスキーや日本酒、焼酎と競合しながら、同じ国産酒同士で限られた棚面積を取り合う状況にありました。しかし、これを「蒸留酒」というより大きなカテゴリーにポジショニングし直すことで、世界の名だたるスピリッツと比較される土俵に乗ることを目指しました。
言語の壁もある国外市場で「日本の伝統酒」として材料や製法を詳細に説明しても伝わらない現実に対して、「熟成年数によって価値が高まるプレミアムな蒸留酒」としてグローバルでも共有できる価値定義に転換しました。
2. 商品自体が語る、直感的なデザイン
常駐の販売員がいない海外の売り場でこうした価値を訴求するには、商品の外観だけで「日本の熟成した蒸留酒」であることを伝える必要がありました。そこで取り入れたのが、熟成年数ごとに価値が向上することを想起させる重厚なボトルフォルムと、その年数を際立たせるラベルデザインです。
ラベルには、10年・12年・24年という熟成年数をわかりやすく配置しました。さらに、10年・12年熟成には銀の和紙、24年熟成には金の和紙をあしらい、直感的に価値の違いを伝えています。表記は英語と日本語を併記し、漢字を効果的に配することで日本らしさを強調。説明文を読む前から「高級な日本のお酒」であることが一目で伝わるデザインとしました。
大切にしたのは、「説明を必要としない魅力」の可視化です。現地の消費者が商品を手に取った瞬間、あるいはバーカウンター裏に置かれているのを目にした瞬間にその価値を直感的に理解し、「飲んでみたい」と思ってもらえることを最優先に設計しました。
「飲み人」と「飲む機会」を増やす地道なアクション
こうした考えのもと、I&COは、小売展開よりも「飲む体験」の場に重きを置いた販売戦略を採用しました。2023年から2025年にかけて、バイヤー向けの展示会、現地メディア向けイベント、そして一般消費者向けのテイスティングイベントをシンガポールで継続的に開催しています。
イベントでは、現地のバーテンダー自身が泡盛の香りや味わい、カクテルとの相性を実際に体験できる機会を提供。泡盛の意外なフルーティさや複雑な熟成香が現地のトップバーのクリエイターたちに大きな驚きを与え、参加者からは「これまで知っていた日本酒とは全く異なる味わい」「カクテルベースとしての可能性を感じる」といった反応をいただきました。
この体験重視のアプローチの結果として、ミシュラン掲載のレストランやアジアのトップバーを含む約30店舗への導入が決定。日本発の古酒が、海外で選ばれるお酒へと一歩を踏み出しました。
未来への展望:沖縄を"必要不可欠"な存在に
このプロジェクトで特に重視したのは、単発的なキャンペーンではなく、持続的なブランド価値を創造することです。時間の経過とともに価値が向上していく商品特性を、ブランド戦略の核心に据えました。
泡盛はすでに、現地メディアで取り上げられ、アジアのトップバーやレストランへの導入が進むなかで、その存在が少しずつ認知されはじめています。しかし、このプロジェクトの本質的な目的は単なる販路の拡大ではなく、泡盛を通じて沖縄という地域全体に興味を持ってもらうことにあります。現地の飲食業界関係者や消費者が泡盛に魅了されれば、その背景にある土地や文化、人々の営みにも自然と目が向く。泡盛を知ることが、沖縄という地域全体を知るきっかけになる。そんな未来の実現を目指しています。
沖縄が世界の人々にとって「What Matters(必要不可欠)」な存在になるよう、I&COは今後も、泡盛の魅力と沖縄の価値を世界に伝える挑戦に伴走していきます。




