こんにちは、I&COです。このニュースレターでは、ブランドの視点でこれからの経営を考えるヒントとなるようなコラムや、I&COの最新情報を隔週でお届けしています。
今回は、テーブルウェアを中心に展開する株式会社キントー チーフブランディングオフィサー 小出慎平氏へのインタビューをお届けします。国内市場の変化を受けて海外展開を本格化させた2010年頃から現在まで、KINTOはアメリカ・ヨーロッパ・イギリスに現地法人を持ちながら、世界各地のパートナーとの協業も組み合わせてグローバル展開を進め、現在はグループ全体で売上の半分以上が海外で生まれるブランドへと成長しています。その歩みを支えてきた「ブランドへの共感」という軸について、I&CO APAC代表の高宮がお話を伺いました。
海外展開を成功させている日本企業の取り組みには、文化や商慣習の違いを越えて信頼を築くためのヒントが数多くあります。このニュースレターでは、日本企業の海外展開を支援するI&COの視点も交えながら、海外で確かなブランドを築いている日本企業にお話を伺い、不定期のインタビューシリーズとしてお届けしてまいります。
危機感とパッション 海外へ目を向けた2つのきっかけ
高宮:KINTOさんが海外展開を本格化させたのは2010年頃と伺っています。最初のきっかけや、当時の課題感はどんなところにあったのでしょうか。
小出:きっかけは大きく2つありました。一つはマーケット環境です。70年代から90年代にかけては住環境の西洋化に伴って洋食器の需要が伸びていたのですが、食器は一度揃えると10年、15年と同じものを使い続ける方が多く、継続的な購買にはつながりにくい商品です。そうした背景から、国内市場だけに閉じていては先行きが厳しいという危機感がありました。
もう一つは、純粋なパッションです。当時のKINTOは海外ブランド食器の輸入卸売業もやっていたので、海外の展示会に参加する機会が多くありました。そこで出会う世界各国のプレーヤーたちの、グローバルへの目の向け方にすごく刺激を受けて、「負けてられない」という気持ちになる。そういう純粋なワクワク感も、大きなドライブになっていましたね。
高宮:危機感とパッション、両方が重なったということですね。
小出:そうですね。構造的にも、テーブルウェアは型などの初期投資が必要なプロダクトビジネスなので、ある程度の生産ボリュームを確保するには海外市場を視野に入れることが必要でした。展開先の国としては、大型の展示会がある香港やアメリカ、フランス、ドイツあたりを起点にしながら、KINTOと親和性がありそうな国であれば可能性を広く捉えていました。
高宮:現在はアメリカ・EU・UKに現地法人を持ちながら、他の地域ではパートナーとの協業で展開されていますよね。現地法人を設立することになった経緯を教えていただけますか。
小出:現地法人を設けている地域でも、現地市場への深い理解やネットワークを有するディストリビューターやエージェントの方々との協働は大切にしてきました。そのうえで、KINTOの場合はプロダクトだけでなく空間やメッセージも含めてブランドを感じてもらい、ファンになっていただきながら共感の輪を広げていくことを大切にしています。そうした価値の届け方をさらに磨いていく中で、自分たちが主体となって直接関わる形も大切だと判断し、現地法人を設けました。
高宮:我々も沖縄県さんと協働しながら泡盛の海外展開をお手伝いしているのですが、ブランドの「伝え方」をどこまで直接手がけるかは、ブランドの性格や展開の段階によって答えが変わる部分ですよね。
小出:おっしゃる通りです。うちの場合はブランドの世界観を丁寧に伝えることを軸に置いているので、そこに向けてどういう体制が一番いいかを地域ごとに判断してきました。現在もディストリビューターのパートナーの方々が多くの国でKINTOを広げてくださっていて、そこには本当に感謝しています。
狙わずして強みになっていた「日本らしさ」
高宮:市場ごとに専用のプロダクトを作ったり、ラインアップを変えたりはされていますか?
小出:していません。開発チームは日本在住の日本人で構成されていて、自分たちの暮らしの中で「こんなものがあったら素敵なのに」という感覚から生まれるものが中心です。もちろん海外の街を歩いてインスピレーションを得ることもありますが、それも日本人としてのフィルターを通して捉えたもの。結果として、日本人ならではのこだわりや生活感が、商品に自然と反映されていると思います。
アメリカやヨーロッパのユーザーは、KINTOがそういう日本のブランドであることを強く意識して見てくれていて、かつそれをポジティブに受け止めてくれているのを感じますね。逆に、日本のお客さんからは「ヨーロッパのブランドだと思っていました」と言われることもありますが(笑)
高宮:私もシンガポールで暮らす中で、日本ブランドへの信頼感がグローバルの前提になっていることを肌で感じます。「日本風」のプロダクトや飲食店がたくさんある中でも、本物の日本ブランドへの評価はむしろ高まっているように思います。
小出:KINTOとしては、そうした価値を意識して宿らせようとしているわけではありません。調和を大切にすることや、主張しすぎないブランドキャラクターといった、ずっと大事にしてきたことが、この数年で特に追い風になっている感覚がありますね。ちょっと違うジャンルの話になりますが、メジャーリーグの大谷選手の献身性や言動、ワールドカップで日本サポーターがスタジアムを掃除する光景が世界で評価されることに通ずるものがある気がしています。狙ってやっているわけじゃないけれど、当たり前の感覚として大事にしてきたことが今になって評価されているのかなと。
高宮:一方で、Instagramは国ごとにアカウントを分けて運用されていますよね。ルックは統一しながら、発信内容は少しずつ変えているように見えます。
小出:そうですね。コンセプトの根底にある部分は一貫させつつ、「もう少しコーヒーにフォーカスしたい」といった点や、「このアイテムを前面に出したい」といった表現の強弱は国ごとに違いがあります。グローバルで制作した素材と各現地法人が制作した素材を組み合わせて活用しながら、現地で制作した素材を日本で使用することもあります。届けたいメッセージについては、ローカライズすべき部分を適切にローカライズするスタンスです。
「共感」の積み重ねでブランドを届ける
高宮:これまでの海外展開の中で、一番難しかったと感じるところはどこですか?
小出:今は現地法人に本当に素敵なメンバーが揃っていますが、共感し合えるメンバーをどう集めるか、そしてその中でKINTOらしい判断軸をどう一貫して持ち続けるか。そこが肝だと感じ続けています。パートナーにしてもチームメンバーにしても、その思いが揃っていれば、多少難しい局面でも一緒に乗り越えていける。だからこそ重要であり、次のステップに進むための前提でもあると考えています。
高宮:ブランドのフィロソフィーはどのように社内に浸透させているんですか?
小出:実は、フィロソフィーを作ったこと自体を社内で大々的に発表しているわけではないんです。ウェブサイトには掲載していますが、「これに沿ってやっていこう」と上から宣言するよりも、日々のコミュニケーションの中で自然と根付いていくことを理想としています。「こういうことが素敵だよね」「KINTOではこれはやりたくないよね」といった会話が自然と社内で生まれ、それが繰り返されることで同じ方向を向いていく、という感じです。
高宮:フィロソフィーを作る段階から皆さんの思いをすくい上げていたからこそ、自然と根付いているということでもありますよね。
小出:その通りだと思います。あとは日々のコミュニケーションの積み重ねですね。規模の大きくない会社がブランドを長く築いていくうえでは、結局そうした部分が重要なのかなと感じています。
高宮:その「共感」の軸は、外部のビジネスパートナーとの関係にも及んでいるんでしょうか。
小出:そうですね。フォトグラファーの方やデザイナーの方、デジタルマーケティングのエージェンシーに至るまで、「KINTOが好きだから関わりたい」と言ってくださる方が多く、そうした背景からご一緒するケースも少なくありません。そうしたパートナーは私たちのことを理解したうえでアウトプットを出してくださるので、よりKINTOらしい表現が生まれやすいと感じています。共感から始まる関係が、コミュニティのように口コミで広がっていくこともあり、とてもありがたいですね。
高宮:最後に、これから海外展開を目指している方へのメッセージをお願いします。
小出:日本のものづくりが持つイメージの良さやカルチャーの強みは、今とても大きな追い風になっていると感じています。個々のブランドが点として頑張るだけでなく、さまざまな日本のブランドが面として世界に広がっていくことで、「日本のものは面白いよね」「このカテゴリーでも日本からこんなブランドが出ているんだね」といった評価が、より大きく育っていくのではないかなと。企業の垣根を越えて、日本企業が一体となってそうした状況をつくっていけたらいいなと思っています。
対談を振り返って
グループ全体で売上の半分以上が海外で生まれるブランドへと成長したKINTOの歩みからは、次の3つの学びが見えてくる。
「共感の質」で、ブランドの広がりをかたちづくる
パートナー選びも、チームメンバー採用も、KINTOが軸に置いてきたのは「ブランドへの共感」だった。共感から始まる関係は、アウトプットの質を高め、口コミでコミュニティとして広がっていく。この循環が、地域を越えてブランドの地盤をつくってきた。意図せず宿る「日本らしさ」を届ける
市場ごとにプロダクトを変えず、日本にいる日本人チームが作り続けたものをそのままグローバルに展開する。その結果として宿った「日本のものづくりへのこだわり」や「調和というブランドキャラクター」が、海外でむしろポジティブに受け取られている。世界観を長く届け続けるための体制を整える
現地法人かパートナーかという選択は、「ブランドの世界観を丁寧に伝える」という目的が起点にある。同時に、その世界観を長く届け続けるためには事業として成立することが不可欠であり、マーケットでブランドが根付くための手法として適しているかも条件になってきた。目的への一貫したこだわりと、そのこだわりを維持するための現実的な目線の両方が、地域ごとの体制選択を支えている。
共感を軸に現地とのつながりを築いてきたKINTO。プロセスを丁寧に重ね、それをプロダクトとして体現してきた歩みには、強いブランドを築くためのヒントが示されている。

高宮 範有(たかみや のりくに)
I&CO APAC代表。Delphys Inc.、PARTYを経て、2019年7月にI&CO Tokyoを立ち上げる。新規事業開発とそのブランディング、体験設計を得意とする。これまでに「UNIQLO IQ」「StyleHint」のコンセプト開発・UXデザインをはじめ、「Mercari Inc. 上場時のコーポレートブランディング」「P&G PANTENE #この髪どうしてダメですか」などを手掛ける。あわせて、スタートアップの事業拡大を数多く担当し、広報戦略立案にも携わる。クリエイティブ集団 PARTYの社外パートナー、TrambellirのCDO(ChiefDesign Officer)を兼任。








