日本発ブランドの「語らずして伝える力」
HUMAN MADEに学ぶ、ブランド成長の鍵
こんにちは、I&COです。このニュースレターでは、日本の社会・企業・人のより良い未来への展望を開くヒントとなるようなコラムや、I&COの最新情報を隔週でお届けしています。
今回は、ニューヨークに拠点を置くレイ・イナモトと、HUMAN MADE(ヒューマンメイド)CEOの松沼 礼さんの対談をお届けします。ブランド成長の裏側にある「言葉にしない戦略」や、海外展開における価値観の共有、プロダクトが担う文化的役割とはどういうものなのか?ぜひご一読ください。
この記事は、レイ・イナモトのPodcast番組「世界のクリエイティブ思考 #114(前編)」の内容をベースに編集したものです。

語らないことが生む熱量と共感
レイ:HUMAN MADEは、ファッションデザイナーNIGOさんがクリエイティブディレクターを務める日本発のブランドで、ここ数年で国内外からの注目度を高めて急成長しています。その背景には、単なるデザインやトレンドではない、独自のブランド哲学があると感じています。
まずは松沼さんご自身のキャリアについてお伺いしたいのですが、もともとはユニクロで17年も勤務されていたんですよね。グラフィックデザイナーとしてスタートされた後、どのようにして現在のような経営のポジションへと移っていかれたのでしょうか?
松沼:もともと独学でグラフィックデザインを学び、友人のイベントのフライヤー制作などをきっかけにユニクロに入社しました。デザイナーからスタートし、企画やマーケティング、ライセンスなどへ業務領域を広げていくなかで、自然とマネジメントや経営に携わるようになりました。
レイ:今やHUMAN MADEの成長を牽引されていますが、特にブランド構築で意識していることはありますか?
松沼:大切にしているのは、「語らない」という姿勢です。服や商品そのものに意味や背景はあるのですが、あえて言葉で説明しすぎないようにしています。むしろ、見る人や着る人が自分なりの解釈で受け止められるような余白を意識したものづくりを心がけています。その余白がブランドへの愛着を育てると考えています。
レイ:なるほど、そのスタンスがファンとの対話を生んでいるように感じますね。
松沼:はい。情報過多な時代だからこそ、語りすぎないことが逆に人を惹きつける。プロダクトが語る力を信じています。

ノンバーバルな価値の伝え方と海外展開
レイ:HUMAN MADEは国内外の多くのファンに支持されていますが、海外展開で直面する文化や言語の壁はありましたか?
松沼:もちろん、オペレーション上での課題や誤解の可能性はあります。ただ、僕たちは言語化されないノンバーバルな価値を重視しているので、大きな障壁にはなりませんでした。言葉ではなく、プロダクト自体の持つ魅力やデザイン、質感が直接伝わるような設計をしているつもりです。
実際、僕自身は英語が堪能というわけではないのですが、海外のパートナーと話していると、言葉が完全に通じなくても、価値観が共有されていればスムーズに意思疎通ができる場面が多いです。パートナーの方々とは根っこの感覚が近いと感じていて、感覚的に共鳴し合える部分が大きいです。
もちろん、パートナー選びも重要で、相性や価値観の共有がブランド展開には欠かせない要素です。そのために最低限の価値観の言語化は必要ですが、やはり最初に商品やブランド自体の力がしっかりしていれば、文化や言語の違いも乗り越えやすくなると実感しています。
さらに、HUMAN MADEは「THE FUTURE IS IN THE PAST(未来は過去にある)」というNIGOさんの思想を掲げていますが、その背景にある膨大なビンテージアーカイブや歴史への造詣について、あえて言葉では語らず、商品を通して伝えることを大切にしています。服を見た時に「見たことあるけど見たことがない」と感じさせるような、懐かしさと新しさが同居する手触りが、熱量や共感を生んでいるのです。

レイ:なるほど。日本のものづくり文化が持つ「モノが語る力」は、まさにHUMAN MADEの強みですね。
松沼:たとえばアニメやマンガ、日本食など、日本は“モノが立つ”文化が根づいている国です。HUMAN MADEもNIGOさんの思想をベースに、プロダクトを前面に出し、作り手の存在を前に出さないことで、かえって普遍的な魅力が広がっていると感じます。そこには、海外のアーティストやミュージシャンにも共鳴される力があります。
誘わずして惹きつける、HUMAN MADE流のデマンド設計
レイ:ここ数年でブランドが急成長した背景には、どんな仕掛けがあるのでしょう?
松沼:あえて言うならば、デマンドを作らないことが結果的にデマンドを生んでいると思います。僕たちは広告宣伝費をかけておらず、使っているのはInstagramやニュースレターなど、最小限のオウンドメディアだけ。ペイドメディアで情報を流すことはしていません。
レイ:あえて情報を出していないということですか?
松沼:はい。むしろ情報が足りないことで、逆に人の興味を引くブランドでありたいと思っています。あまり説明しすぎると、それだけで満足されてしまって、関心が薄れてしまうこともある。だからこそ、見た人がもっと知りたいと感じて、自分で調べたり語ったりしたくなる余白がある状態が理想なんです。
レイ:実際にファンの方々が、自発的にブランドを語る動きもあるようですね。
松沼:まさにそこが面白いところで、私たちが公式で発信していないような情報を、ファンの方がSNSで能動的に発信してくれるんです。HUMAN MADEのファンコミュニティが独自にInstagramアカウントを立ち上げて、商品やお店の解説、思い出、ちょっとしたTipsまでシェアしてくれています。
レイ:自然発生的なファン主導のマーケティングですね。
松沼:そうですね。これは僕たちが仕掛けたというより、共鳴してくれた人たちが自主的にやってくれているんです。さらに、ここ数年でK-POPアーティストなどが好んで着てくれるようになって、そうした方たちのファン層から新しいファンが増えていった面もあります。でもそれも僕たちから積極的にアプローチしたわけではなくて、自然と広がっていった結果です。
レイ:自然とファンが増えて、ブランドの熱量が高まっているということでしょうか。
松沼:はい。僕たちが「言わない」ことで、逆に人が語りたくなる。「見たことあるけど見たことない」ような懐かしさと新しさのバランスや、語らないことで生まれる探求心が、ブランドに対する興味と熱量を生んでいるのだと思います。
日本らしさとグローバル性の共存
レイ:商品や店舗のディテールに日本らしさがさりげなく表現されていますよね?
松沼:明確に日本文化を打ち出すと掲げてはいませんが、僕たちの中に自然とある価値観や美意識がにじみ出ているのだと思います。たとえば「人間製(HUMAN MADE)」シリーズでは、日本の伝統工芸品─張り子や風鈴、うちわなどを現代風に再構築して、グローバルな文脈の中に再提示しています。
レイ:それが海外の方にとっては、日本文化の入り口として魅力的に映るのですね。
松沼:僕たちの服をきっかけに「これは何?」と調べてくれる人がいたり、日本文化に対する関心が広がったりする。そういった接点を作っていくことが、これからのブランドに求められる役割の一つなのかもしれません。
レイ:HUMAN MADEのように日本らしさを自然に滲ませながらも、世界中に共鳴を広げていく姿勢は、これから海外進出を目指す日本企業にとっても非常に参考になりますね。説明やマーケティングに頼らず、プロダクトそのものの力を信じる姿勢。これはまさに発想の転換、マインドシフトだと感じました。
松沼:ありがとうございます。僕自身、まだ経営者としては学びの連続ですが、HUMAN MADEを通して、カルチャーと経済性、個性と普遍性をどう両立させていくか、日々考え続けています。これからも日本から世界へと届けられる価値を、地に足をつけて磨いていきたいと思っています。
対談を振り返って:
HUMAN MADEから学ぶ三つの視点(レイ・イナモト)
HUMAN MADEのブランド戦略には、日本発でありながら世界に届くためのヒントが詰まっていた。以下に、その中核をなす三つの視点があった。
1. 語りすぎない
HUMAN MADEは、商品の背景やストーリーを積極的に説明しない。ディテールを語らず、機能を売り込まず、情報を最小限にとどめる。これにより、受け手側が商品を見て、想像し、解釈する余白が生まれる。語りすぎず、見る者に“気にさせる”設計。情報過多の時代において、この意図的な沈黙こそが、ブランドへの没入感と熱量を育てる原動力になっている。
2. ノンバーバルを武器にする
言葉を使わずに伝わる世界観に強みが宿る。プロダクトの質感、空間の空気感、グラフィックの肌触り。こうした要素がブランドのメッセージとなり、国境や言語を越えて共鳴を生む。実際、同ブランドは海外展開において言語の壁をあまり感じていないという。視覚と感性に訴えるノンバーバルな伝達は、ブランドの普遍性を支える大きな武器である。
3. 「文化の入り口」を作っていく
日本の伝統文化を前面に打ち出すのではなく、プロダクトのなかに自然に滲ませることで、文化への関心を喚起している。張り子や風鈴、浴衣の意匠といった伝統的な要素を現代的に再構成し、それをポップに提示する。その結果、ユーザーが「これは何だろう」と自ら調べるきっかけとなり、文化への自発的な接続が生まれる。ブランドが単なる物の提供者にとどまらず、「文化の入り口を設計する存在」として機能していることが、国際的な支持を得る理由のひとつだと言える。



